トヨタとトランプ、新聞が論じない点について

 年明け、この発言にはびっくりした。それまでもフォード社などにプレッシャーをかけていたが、まさか日本企業にも矛先が向くとは……と驚いていた。ところが、四日後の自動車ショーでトヨタ社長がさらにびっくりする発言をした。

The Camry has been one of the reasons why we’ve invested $22 billion in the U.S. over the last 60 years and why we will invest another $10 billion here in just the next five years alone.

カムリを考えればわかるが、トヨタはこの60年で合衆国に220億ドルも投資してきた。そしてこれからたった5年でもう100億ドルを投資するつもりだ。

 これに対して、すべての新聞をチェックしたわけではないが、読売も、朝日も、産経も、日経も、足並みをそろえて語気を強めて批判している。その内容はおおむね正しいのだが、「恫喝」だの「政治権力」だの「百害あって一利なし」だの「現実を無視した」だの「自由な判断を曲げる」だの「不当な圧力」だの「(ツイッターを使った)一方的な攻撃」だの、やや偏見が強すぎるように感じた。
 トヨタ(豊田社長)が信じられないほどの馬鹿じゃあないかぎり、これほど大規模な額面の投資計画を、もとから内部で協議していなかったわけないだろう。そうであるならば、べつに恫喝でもないし、自由な判断を曲げたわけでもなかろう。ぼくには「トヨタが発表を急がされた」だけにしか見えない。 
 逆にトヨタが「うちの会社は米国にこんなに雇用を産んでるですぅ!」と反論したとしたら、関係はむしろ悪化していたと思うし、メキシコに新工場も作れなくなっていたと思う(「トランプは雇用を評価せよ!」と主張する日経はそこを見落としている)。そうではなく、トランプ氏のツイートに乗っかるようにして投資計画を発表したことで、『さすがトランプ次期大統領、トヨタから投資を引き出した』という印象が残るし、関係悪化を防いでそのままちゃっかりメキシコに向上をつくることができる。
 これほど上手な対処を、ぼくは思いつかない。
 新聞は徹底的に指弾するが、ぼくには、トランプもトヨタも高度な駆け引きをしているように思える。もちろんこれは結果論なのかもしれないが。